今日は吐き出したい事があって書きます。
タイトルと始まりで引くかもしれませんが、読後感は決して悪くないと思いますので安心してください。
仲のいい友人がここイギリスで典型的な詐欺に引っかかりました。
元々は「マイクロソフトです、お宅のコンピューターにウィルスが見つかりました。今すぐチェックしますからこちらをダウンロードしてください(木馬系乗っ取りソフト)」というものだったのだけれど。
今回それが発展を遂げて、「こちら電話会社です、あなたのルーターに不正アクセスが確認されました。今すぐ履歴をチェックしますからこちらをダウンロードしてください(リモートアクセスソフト)」になってました。
マイクロソフトの詐欺は非常に有名で、元々ちょっとばかりIT知識のある私は、それまでマイクロソフト詐欺は面白い電話相手くらいに思ってて、電話がかかってくるたびに面白がって散々からかってきました。
電話をかけてくるのは大抵インド人で、彼らは片言の英語で頑張って説明してきます。でも中にはしっかりした英語でITの知識も充分にある人がいて、「あんたそんな仕事してないでちゃんと働けば」と電話口で言うことも度々ありました。
そんな話を友人の彼にもお茶の時なんかに散々していたにも関わらす、そして一緒に冗談にして笑っていたにも関わらず、「マイクロソフト」がもっと身近な電話会社の名前になった途端、信じてしまったそうです。
彼は少しばかり年配ですが、今までずっとコンピューターを日常的に使ってきた人。だから私もまさか!という思いでした。
気づいた時点ですぐに通報したようですが、銀行のアカウントを確認するとやはり高額のお金が引き下ろされてしまっていたそうです。
何が頭に来たって、よりにもよって仕事を掛け持ちして働いてるような勤勉な彼から家族の仕送りの為に溜めていた貯金を盗んでいったこと。そして私がもう少し詳しく詐欺のお話をしていれば彼が多分引っかからなかっただろうと思うと胃がよじれる思いでした。
次の日私は彼に頼まれて彼の家に行き、コンピュータを調べ、結果、友人が相手のいいようにリモート接続ソフトをインストールしてしまっていた事、そしてそれを接続したまま5時間ほど放置してしまっていたことを確認してがっくりと肩を落としました。
ここまでされているともうどうしようもありません。私が出した結論はコンピュータは完全消去して設定しなおし。彼の使ってるアカウントのパスワードも全て変更というものです。その他にも警察や電話会社、銀行などにも行って説明が必要です。仕事を掛け持ちして働いている彼にとってはとんでもない時間のロスです。
今思えばあのマイクロソフトの電話をかけて来ていたお兄ちゃんたちをもっと詰っておけばよかった!
忸怩たる思いのまま、彼のコンピュータのバックアップを手伝っていると。
なんと、同じ詐欺師から電話がかかってきたのです。昨日甘い汁が吸えたから、これはいいカモだと思ったのでしょう。
「○○のテクニカルサポートです。昨日お電話してお手伝いしていたのですが途中で電話が切れてしまいかけなおしています」
「ああ、悪いけど忙しいから後でかけてくれる?」
彼は不機嫌にそう答えます。電話会社に通報してその電話をブロックしてもらうつもりのようでした。でも私はそこで手を差し出して、電話を受けとりました。
「あー、すみません、彼はこれから仕事だそうなので、電話変わりました。何をすればいいですか?」
「ああ、どなたですか?」
最初は電話の相手が変わったことに不信を抱いてるようで、必死に彼に電話を替わるように言っていましたが、途中で「もう出かけちゃいました、私もよく分からないんですけど教えてください」というと、気を取り直して、技術部門に変わるからそっちと話してくれと言います。そこで新しい人間に電話が移って、より流暢な英語を話すジェームズ(どこにでもある名前、間違いなく偽名。訛りからしてインド系)が説明を始めました。
ジェームズは昨日私の友人にインストールさせた、リモート接続アプリのアイコンがデスクトップにあるはずだから開けろといいます。残念ながらその時点で私はすでにそれをアンインストールしていました。ですから「あー開けました、開けました」と嘘を付いて先を続けます。
その時点で多分ジェームズは自分のシステムから友人のコンピュータにアクセスしようとしていたのでしょう、それが接続できない為少し疑い始めました。
「本当に開きましたか?」
「え、開いてますよ」
「本当ですか?」
「開いてますって」
「じゃあ何が見えますか?」
「あー、えっとなんか記号とか接続とか(でまかせ)」
「……じゃあ右側にユーザー名とパスワードがありますよね」
「あーこれかな?(マズい、見えないよ)」
そこで様子を見守ってた友人が、ちゃっかり昨日ノートに書き留めていたユーザー名とパスワードを差し出してくれました!
「あー、ユーザー名はコレコレ、パスワードはアレアレですね(わざとなるべくわかりづらくしゃべる)」
さて、この時点で私は本当は彼が何を友人にさせたのか辿るつもりでいました。例えコンピュータはどの道全て綺麗にしなければいけないにしても、せめてどんなことをされたのか分かれば、見落としていることも防げるかもしれない、そんな思いからでした。
でもそれから何度もユーザー名とパスワードのやり取りを繰り返しているうちに当たりまえの事実に気が付きました。
(これ、これ以上先に進めないじゃん)
そう、このジェームズさんは接続が確認されないと先に進んでくれません。むろん私は接続なんてさせたくない(事実コンピュータのネットワークは完全に落としてありました)。
(でもここまでのやり取りを無駄にしたくない。そして私は心底怒ってる!)
そして私の後取った行動は……正に黒歴史です。
私はおもむろに電話をスピーカに切り替えて驚く友人を横目にとんでもない行動を始めました。
「フ、フハハハハ、気が付かなかったか!今お前のコンピュータのIPを確認した(適当なローカルIP)。私はインターポールのセキュリティだ、もうすぐその会社には警察が来る!」
「はあ?何を言ってるんですか?」
「私は検索の実の作業をここで請け負ってるだけだ。そのIPからもうすぐデータセンターが判明するから待ってろ」
「訳が分かりません、何を……」
「分からないとはなんだ、散々詐欺を繰り返しやがって!私の友人の金を返せ!」
「はあ?詐欺ってなに言ってるんですか?侮辱罪で訴えますよ?」
「心配するな、訴えるのはこっちだ、今までお前が騙してきた連中みんなくるぞ、すぐにそこは警察に抑えられる、こんな事をしてるお前が私は憎い!私は心底頭に来てる!最悪だ!(ここまで来てもFワードが使えない小心者の日本人)」
途中から激昂しちゃった私は単なる誹謗中傷を繰り返し、相手もいつの間にかそれに乗っかって部署を教えろ、訴えてやる、俺は悪くない、こっちは詐欺なんて知らないと繰り返し。
で、突然、そのジェームズさんの声がなんか震え気味なのに気づいてしまった。
途端、頭がサーッと覚めて、気づいてしまう。
(これは以前私がからかってきたマイクロソフト詐欺のお兄ちゃん達と一緒なんだ。この人は単に他に仕事がなくて仕方なくこんな仕事の片棒を担いでるんだった……)
「あのさ、あんたなんでそんな仕事してるの?さっき私とやりあってた時、ちゃんとしっかりした英語喋れてたよね?サポートとしてもちゃんと相手の話を聞いて時間かけて誘導出来て。しかも私が言ってたIT用語もちゃんと理解してるし。分かってる?自分が何してるのか?」
「…………」
「その仕事、先はないよ。こうやってる間にも私の仲間が(まだ言ってる)そこを見つけていずれは全員捕まるんだよ?その時真っ先に掴まるの多分あんただよ?」
「それだけじゃなく、こんなひどいことを続けて、老後の蓄えや苦労して働いてる人からお金取ってその報いは絶対来るからね」
「…………」
「ちゃんと英語も喋れてそれだけ人と対応できて他の仕事が出来ないなんていわせないよ?私の英語聞いてごらんよ、ひどいでしょ?これでもちゃんと働いてるよ?」
「……じゃあ仕事を紹介してくれ」
びっくりした。詐欺った相手に仕事を紹介してくれってあんた。
「よく考えて。あんた私の友人からお金取ったんだよ?それで本当に仕事紹介出来ると思う?犯罪者に仕事を紹介なんて出来るわけないでしょ」
「仕事がないんだ。……あんたのいうことで目が覚めた。辞めたい、けど仕事がないんだ」
「そ、そう、じゃあ仕事探しなよ。資格取ってさ。インターネット使えるんだったら幾らでも勉強できる時代だよ?」
「…………」
「XXとかマイクロソフトの▽▽とか、資格試験も手ごろだよ(自分が昔受けた資格試験の名前)。何にもしないで仕事がないなんて、それ言い訳だよね?」
「…………」
「勉強しなよ、ちゃんと。折角喋れて色々知ってるんでしょ、ねえ」
「……考える」
「分かってる?そこにいれば間違いなくこれからも同じようなことが繰り返されるんだよ?」
「……今日で辞める」
「……辞められるの?」
「辞められる」
ここで私、突然怖くなった。というのは以前ラスベガスにいた頃にカジノで働く人たちが簡単には辞められない話、辞めようとすると何が起きるか聞いてたから。
「……危なくないの?」
「……だいじょうぶだとおもう」
「……本当に?気を付けなよ?」
「……あんた、いいひとだ。僕のことは気にしないで、ここで2年働いてるけど誰も僕の本当の名前も知らないから大丈夫」
2年!2年もこんな事やってきたのかこの人は!
そこから。彼の事情を聞いてしまった。インドからイギリスに来て、ちゃんと最初は本当に電話会社で働いてたらしい。それが首になって仕事がなくて、この詐欺会社に就職したんだそうだ。
なんと彼はロンドンの一室でこれをやっていた。私はてっきりいつものインドからの電話だと思ってたから余計びっくり。
「あんた、イギリスに来れてるんじゃないの!皆ここに来るために苦労してるの知ってるでしょ?無駄にしないでよ。これない人一杯いるんだよ。私の友人も凄い苦労してインドからイギリスに渡ってキャリア詰んでるよ」
それから。私はなんか凄く悔しくて。なぜか何度も何度も資格試験のことやら入りやすい会社の話やらを延々と一人繰り返し。
流石にしゃべることも尽きた頃、また彼が繰り返した。
「……あんたのいったことで目が覚めた」
「……悪いと思ってる?」
「思ってる」
「じゃあ詐欺った人に謝って」
そこまで電話で私がしていたやり取りは、無論私の友人も聞いていた。私が電話を向けると彼はおもむろに話し始め、静かに怒りを発散させた。
「君のことは絶対に許さない。取られたお金を返せ。何といおうとも、絶対に許さない」
多分今まで実際にお金を取られた本人の声を聴いたことがなかったのだろう。ジェームズさんは電話口で黙り込んじゃった。
しばらくして、彼がボソリと呟いた。
「お金を返したい、金額を言ってください」
「いやだ」
「なんでですか?」
「もう君を信用できるわけないだろう。君とやり取りなんてまっぴらだ」
またもショックを受けた彼は暫く黙り込んで。
「もうしません。あなたにも今までしてきた相手にも本当に申し訳ないです。今日辞めます。二度としません」
本当にそう言った。
それからもチョロチョロと話をしてると彼が聞いてくる。
「マダム、今日は何をお昼に食べましたか?」
これはイギリスのサービスセンターがよく使うフレーズだ。何かで相手を待たせてる間、時間を持たせるために使う常用句。
「あんたのお陰で昼抜きだよ」
私がため息交じりにそう答えると、苦しそうに「ごめんなさい」と答える。
「もう切るからね?」
「はい……」
「辞める時気を付けなよ」
「はい」
き、切れない。この人、よっぽどちゃんと話が出来る相手がいなかったのだろう、電話を切りたくない雰囲気がビシバシ伝わってきて切れない!
「マダム、今日は何をお昼に食べましたか?」
「だから食べてないって」
流石にどうやってもそれ以上話を引き伸ばせないと悟ったジェームズさんが苦しそうに言った。
「マダム、お昼食べてください」
「うん、分かった。それじゃあね? ……またかけて」
つい、そう言ってしまった。だってこれが英語の常用句だから。
それを聞いた彼は電話口でクスクスと笑って「はい、それではまた」っと返して電話を切った。
電話を切った私は一気に緊張が切れてバッタリと倒れちゃった。胃が痛くて。
なんでこんなに胃が痛いのかと思えば。
要は私は怒り慣れてなかったのだ。
普段、私は人を憎んだり怒ったり叫んだり、ましてやインターポールの真似して騙したりなんてしたことがない。あまりの緊張から胃痛がひどくて結局そのまま私は家に帰ってふて寝した。
一日経って、今日これを書きながらつくづく思う。
あんなに時間を割いて、やり慣れないことをしてまで相手を追い詰めて。結果胃痛に悩み、執筆時間をそがれ、それで一体私は何をしたかったのか?
友人のお金は無論返ってきて欲しい。コンピュータやアカウントの設定のやり直しだってしないで済めばよかった。
でもそれよりも何よりも。
あの時、とことんまで頭に来ていた私は、彼の「ごめんなさい」一言がどうしても欲しかったのだ。
彼は許されないことをしたし、犯罪者だ。その事実は何をしたって変わらない。
だけど、例えその事実が変わらなくても。
私は彼のせめてもの謝罪が聞きたかった。
彼の言葉は本当だったのでしょうか?それとも私の電話を長引かせるための嘘でしょうか?
本当のことは分かりません。
でも本当であって欲しい。彼の為にも私たちの為にも。私は今も心底そう思っています。
これを書く直前、その友人から電話があっりました。
今日銀行から連絡があって、友人のお金はちゃんと銀行と警察が取り返してくれたそうです。
私の努力とは全く関係ない所で物事はやっぱり動いてた!
そして、思い出したように、ぽつりぽつりと電話がかかってくるそうです。友人はもう絶対に出ないそうですが、私はほんの少しだけ、ジェームズさんが話し相手が欲しくて電話してきてるんじゃないかって思っています。
……さて皆さん、これ信じますか?
信じがたいですよね。でもこれ、本当に私が昨日今日とやったやり取りです。
これをこのまま小説に……なんてできません。
だってほんとに。
現実はいつでも小説より全然、『奇』すぎるんですよ。
(このお話、あまりに黒歴史なのでもしかしたら後で消すかもw)
タイトルと始まりで引くかもしれませんが、読後感は決して悪くないと思いますので安心してください。
仲のいい友人がここイギリスで典型的な詐欺に引っかかりました。
元々は「マイクロソフトです、お宅のコンピューターにウィルスが見つかりました。今すぐチェックしますからこちらをダウンロードしてください(木馬系乗っ取りソフト)」というものだったのだけれど。
今回それが発展を遂げて、「こちら電話会社です、あなたのルーターに不正アクセスが確認されました。今すぐ履歴をチェックしますからこちらをダウンロードしてください(リモートアクセスソフト)」になってました。
マイクロソフトの詐欺は非常に有名で、元々ちょっとばかりIT知識のある私は、それまでマイクロソフト詐欺は面白い電話相手くらいに思ってて、電話がかかってくるたびに面白がって散々からかってきました。
電話をかけてくるのは大抵インド人で、彼らは片言の英語で頑張って説明してきます。でも中にはしっかりした英語でITの知識も充分にある人がいて、「あんたそんな仕事してないでちゃんと働けば」と電話口で言うことも度々ありました。
そんな話を友人の彼にもお茶の時なんかに散々していたにも関わらす、そして一緒に冗談にして笑っていたにも関わらず、「マイクロソフト」がもっと身近な電話会社の名前になった途端、信じてしまったそうです。
彼は少しばかり年配ですが、今までずっとコンピューターを日常的に使ってきた人。だから私もまさか!という思いでした。
気づいた時点ですぐに通報したようですが、銀行のアカウントを確認するとやはり高額のお金が引き下ろされてしまっていたそうです。
何が頭に来たって、よりにもよって仕事を掛け持ちして働いてるような勤勉な彼から家族の仕送りの為に溜めていた貯金を盗んでいったこと。そして私がもう少し詳しく詐欺のお話をしていれば彼が多分引っかからなかっただろうと思うと胃がよじれる思いでした。
次の日私は彼に頼まれて彼の家に行き、コンピュータを調べ、結果、友人が相手のいいようにリモート接続ソフトをインストールしてしまっていた事、そしてそれを接続したまま5時間ほど放置してしまっていたことを確認してがっくりと肩を落としました。
ここまでされているともうどうしようもありません。私が出した結論はコンピュータは完全消去して設定しなおし。彼の使ってるアカウントのパスワードも全て変更というものです。その他にも警察や電話会社、銀行などにも行って説明が必要です。仕事を掛け持ちして働いている彼にとってはとんでもない時間のロスです。
今思えばあのマイクロソフトの電話をかけて来ていたお兄ちゃんたちをもっと詰っておけばよかった!
忸怩たる思いのまま、彼のコンピュータのバックアップを手伝っていると。
なんと、同じ詐欺師から電話がかかってきたのです。昨日甘い汁が吸えたから、これはいいカモだと思ったのでしょう。
「○○のテクニカルサポートです。昨日お電話してお手伝いしていたのですが途中で電話が切れてしまいかけなおしています」
「ああ、悪いけど忙しいから後でかけてくれる?」
彼は不機嫌にそう答えます。電話会社に通報してその電話をブロックしてもらうつもりのようでした。でも私はそこで手を差し出して、電話を受けとりました。
「あー、すみません、彼はこれから仕事だそうなので、電話変わりました。何をすればいいですか?」
「ああ、どなたですか?」
最初は電話の相手が変わったことに不信を抱いてるようで、必死に彼に電話を替わるように言っていましたが、途中で「もう出かけちゃいました、私もよく分からないんですけど教えてください」というと、気を取り直して、技術部門に変わるからそっちと話してくれと言います。そこで新しい人間に電話が移って、より流暢な英語を話すジェームズ(どこにでもある名前、間違いなく偽名。訛りからしてインド系)が説明を始めました。
ジェームズは昨日私の友人にインストールさせた、リモート接続アプリのアイコンがデスクトップにあるはずだから開けろといいます。残念ながらその時点で私はすでにそれをアンインストールしていました。ですから「あー開けました、開けました」と嘘を付いて先を続けます。
その時点で多分ジェームズは自分のシステムから友人のコンピュータにアクセスしようとしていたのでしょう、それが接続できない為少し疑い始めました。
「本当に開きましたか?」
「え、開いてますよ」
「本当ですか?」
「開いてますって」
「じゃあ何が見えますか?」
「あー、えっとなんか記号とか接続とか(でまかせ)」
「……じゃあ右側にユーザー名とパスワードがありますよね」
「あーこれかな?(マズい、見えないよ)」
そこで様子を見守ってた友人が、ちゃっかり昨日ノートに書き留めていたユーザー名とパスワードを差し出してくれました!
「あー、ユーザー名はコレコレ、パスワードはアレアレですね(わざとなるべくわかりづらくしゃべる)」
さて、この時点で私は本当は彼が何を友人にさせたのか辿るつもりでいました。例えコンピュータはどの道全て綺麗にしなければいけないにしても、せめてどんなことをされたのか分かれば、見落としていることも防げるかもしれない、そんな思いからでした。
でもそれから何度もユーザー名とパスワードのやり取りを繰り返しているうちに当たりまえの事実に気が付きました。
(これ、これ以上先に進めないじゃん)
そう、このジェームズさんは接続が確認されないと先に進んでくれません。むろん私は接続なんてさせたくない(事実コンピュータのネットワークは完全に落としてありました)。
(でもここまでのやり取りを無駄にしたくない。そして私は心底怒ってる!)
そして私の後取った行動は……正に黒歴史です。
私はおもむろに電話をスピーカに切り替えて驚く友人を横目にとんでもない行動を始めました。
「フ、フハハハハ、気が付かなかったか!今お前のコンピュータのIPを確認した(適当なローカルIP)。私はインターポールのセキュリティだ、もうすぐその会社には警察が来る!」
「はあ?何を言ってるんですか?」
「私は検索の実の作業をここで請け負ってるだけだ。そのIPからもうすぐデータセンターが判明するから待ってろ」
「訳が分かりません、何を……」
「分からないとはなんだ、散々詐欺を繰り返しやがって!私の友人の金を返せ!」
「はあ?詐欺ってなに言ってるんですか?侮辱罪で訴えますよ?」
「心配するな、訴えるのはこっちだ、今までお前が騙してきた連中みんなくるぞ、すぐにそこは警察に抑えられる、こんな事をしてるお前が私は憎い!私は心底頭に来てる!最悪だ!(ここまで来てもFワードが使えない小心者の日本人)」
途中から激昂しちゃった私は単なる誹謗中傷を繰り返し、相手もいつの間にかそれに乗っかって部署を教えろ、訴えてやる、俺は悪くない、こっちは詐欺なんて知らないと繰り返し。
で、突然、そのジェームズさんの声がなんか震え気味なのに気づいてしまった。
途端、頭がサーッと覚めて、気づいてしまう。
(これは以前私がからかってきたマイクロソフト詐欺のお兄ちゃん達と一緒なんだ。この人は単に他に仕事がなくて仕方なくこんな仕事の片棒を担いでるんだった……)
「あのさ、あんたなんでそんな仕事してるの?さっき私とやりあってた時、ちゃんとしっかりした英語喋れてたよね?サポートとしてもちゃんと相手の話を聞いて時間かけて誘導出来て。しかも私が言ってたIT用語もちゃんと理解してるし。分かってる?自分が何してるのか?」
「…………」
「その仕事、先はないよ。こうやってる間にも私の仲間が(まだ言ってる)そこを見つけていずれは全員捕まるんだよ?その時真っ先に掴まるの多分あんただよ?」
「それだけじゃなく、こんなひどいことを続けて、老後の蓄えや苦労して働いてる人からお金取ってその報いは絶対来るからね」
「…………」
「ちゃんと英語も喋れてそれだけ人と対応できて他の仕事が出来ないなんていわせないよ?私の英語聞いてごらんよ、ひどいでしょ?これでもちゃんと働いてるよ?」
「……じゃあ仕事を紹介してくれ」
びっくりした。詐欺った相手に仕事を紹介してくれってあんた。
「よく考えて。あんた私の友人からお金取ったんだよ?それで本当に仕事紹介出来ると思う?犯罪者に仕事を紹介なんて出来るわけないでしょ」
「仕事がないんだ。……あんたのいうことで目が覚めた。辞めたい、けど仕事がないんだ」
「そ、そう、じゃあ仕事探しなよ。資格取ってさ。インターネット使えるんだったら幾らでも勉強できる時代だよ?」
「…………」
「XXとかマイクロソフトの▽▽とか、資格試験も手ごろだよ(自分が昔受けた資格試験の名前)。何にもしないで仕事がないなんて、それ言い訳だよね?」
「…………」
「勉強しなよ、ちゃんと。折角喋れて色々知ってるんでしょ、ねえ」
「……考える」
「分かってる?そこにいれば間違いなくこれからも同じようなことが繰り返されるんだよ?」
「……今日で辞める」
「……辞められるの?」
「辞められる」
ここで私、突然怖くなった。というのは以前ラスベガスにいた頃にカジノで働く人たちが簡単には辞められない話、辞めようとすると何が起きるか聞いてたから。
「……危なくないの?」
「……だいじょうぶだとおもう」
「……本当に?気を付けなよ?」
「……あんた、いいひとだ。僕のことは気にしないで、ここで2年働いてるけど誰も僕の本当の名前も知らないから大丈夫」
2年!2年もこんな事やってきたのかこの人は!
そこから。彼の事情を聞いてしまった。インドからイギリスに来て、ちゃんと最初は本当に電話会社で働いてたらしい。それが首になって仕事がなくて、この詐欺会社に就職したんだそうだ。
なんと彼はロンドンの一室でこれをやっていた。私はてっきりいつものインドからの電話だと思ってたから余計びっくり。
「あんた、イギリスに来れてるんじゃないの!皆ここに来るために苦労してるの知ってるでしょ?無駄にしないでよ。これない人一杯いるんだよ。私の友人も凄い苦労してインドからイギリスに渡ってキャリア詰んでるよ」
それから。私はなんか凄く悔しくて。なぜか何度も何度も資格試験のことやら入りやすい会社の話やらを延々と一人繰り返し。
流石にしゃべることも尽きた頃、また彼が繰り返した。
「……あんたのいったことで目が覚めた」
「……悪いと思ってる?」
「思ってる」
「じゃあ詐欺った人に謝って」
そこまで電話で私がしていたやり取りは、無論私の友人も聞いていた。私が電話を向けると彼はおもむろに話し始め、静かに怒りを発散させた。
「君のことは絶対に許さない。取られたお金を返せ。何といおうとも、絶対に許さない」
多分今まで実際にお金を取られた本人の声を聴いたことがなかったのだろう。ジェームズさんは電話口で黙り込んじゃった。
しばらくして、彼がボソリと呟いた。
「お金を返したい、金額を言ってください」
「いやだ」
「なんでですか?」
「もう君を信用できるわけないだろう。君とやり取りなんてまっぴらだ」
またもショックを受けた彼は暫く黙り込んで。
「もうしません。あなたにも今までしてきた相手にも本当に申し訳ないです。今日辞めます。二度としません」
本当にそう言った。
それからもチョロチョロと話をしてると彼が聞いてくる。
「マダム、今日は何をお昼に食べましたか?」
これはイギリスのサービスセンターがよく使うフレーズだ。何かで相手を待たせてる間、時間を持たせるために使う常用句。
「あんたのお陰で昼抜きだよ」
私がため息交じりにそう答えると、苦しそうに「ごめんなさい」と答える。
「もう切るからね?」
「はい……」
「辞める時気を付けなよ」
「はい」
き、切れない。この人、よっぽどちゃんと話が出来る相手がいなかったのだろう、電話を切りたくない雰囲気がビシバシ伝わってきて切れない!
「マダム、今日は何をお昼に食べましたか?」
「だから食べてないって」
流石にどうやってもそれ以上話を引き伸ばせないと悟ったジェームズさんが苦しそうに言った。
「マダム、お昼食べてください」
「うん、分かった。それじゃあね? ……またかけて」
つい、そう言ってしまった。だってこれが英語の常用句だから。
それを聞いた彼は電話口でクスクスと笑って「はい、それではまた」っと返して電話を切った。
電話を切った私は一気に緊張が切れてバッタリと倒れちゃった。胃が痛くて。
なんでこんなに胃が痛いのかと思えば。
要は私は怒り慣れてなかったのだ。
普段、私は人を憎んだり怒ったり叫んだり、ましてやインターポールの真似して騙したりなんてしたことがない。あまりの緊張から胃痛がひどくて結局そのまま私は家に帰ってふて寝した。
一日経って、今日これを書きながらつくづく思う。
あんなに時間を割いて、やり慣れないことをしてまで相手を追い詰めて。結果胃痛に悩み、執筆時間をそがれ、それで一体私は何をしたかったのか?
友人のお金は無論返ってきて欲しい。コンピュータやアカウントの設定のやり直しだってしないで済めばよかった。
でもそれよりも何よりも。
あの時、とことんまで頭に来ていた私は、彼の「ごめんなさい」一言がどうしても欲しかったのだ。
彼は許されないことをしたし、犯罪者だ。その事実は何をしたって変わらない。
だけど、例えその事実が変わらなくても。
私は彼のせめてもの謝罪が聞きたかった。
彼の言葉は本当だったのでしょうか?それとも私の電話を長引かせるための嘘でしょうか?
本当のことは分かりません。
でも本当であって欲しい。彼の為にも私たちの為にも。私は今も心底そう思っています。
これを書く直前、その友人から電話があっりました。
今日銀行から連絡があって、友人のお金はちゃんと銀行と警察が取り返してくれたそうです。
私の努力とは全く関係ない所で物事はやっぱり動いてた!
そして、思い出したように、ぽつりぽつりと電話がかかってくるそうです。友人はもう絶対に出ないそうですが、私はほんの少しだけ、ジェームズさんが話し相手が欲しくて電話してきてるんじゃないかって思っています。
……さて皆さん、これ信じますか?
信じがたいですよね。でもこれ、本当に私が昨日今日とやったやり取りです。
これをこのまま小説に……なんてできません。
だってほんとに。
現実はいつでも小説より全然、『奇』すぎるんですよ。
(このお話、あまりに黒歴史なのでもしかしたら後で消すかもw)
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